はじめての波はじめての白い砂はじめての風はじめての海 【俵万智さん「たんぽぽの日々」より】

07-06-2022

はじめて海を見た息子さん、はじめて息子さんと一緒に見た海・・・ 海の大好きな俵万智さんの感動が押し寄せる波のように伝わってきます。
俵万智さんにとって包容力のある豊かな海。「嘘」さえ飲み込んでくれる海。
時折、私も無性に海を見たいと思うことがあります。海の波、砂、風が何もかも癒してくれる・・・。
母なる海・・・三好達治さんの言葉も美しい。大好きなエッセイです。
(広報担当 Y.N)

はじめての波はじめての白い砂はじめての風はじめての海

息子が初めて海を見たのは、二歳のときだった。七月はじめの午後。仙台からほど近い海辺。あいにく天気はそれほどよくない。どどーん、ざぶーん、という大きな波の音に、泣きだすのではないかと心配した。が、それはまったくの杞憂で、海を見るなり大喜びで走りだし、あっというまに裸足になり、そのまま入っていきそうな勢いだ。
さすがに危ないので、親戚のおじさんが肩車をしてくれた。息子は波に手を伸ばし、海水をぺろぺろ舐め「しょっぱ~い! しょっぱいよ!」と言っては、ゲラゲラ笑っている。
「この坊主は、ちっとも怖がらないなあ」とおじさんも呆れるぐらいのはしゃぎようだ。手をつないで、波と鬼ごっこをするように走る遊びも、飽きることなく続けていた。

どうやら海との相性のよさそうな息子を見て、私も嬉しくなる。山派か海派かと聞かれれば、だんぜん海派だ。これからは息子と一緒に海を楽しめるのだなあと思うと、わくわくした。
ちなみに、運動嫌いの私は、「海を楽しむ」といっても「眺めて楽しむ」のが主だ。海を見ていると、気持ちが落ちつく。さわやかに晴れた海もいいが、荒々しい冬の日本海のような、厳しい表情の海も大好きだ。

今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海

海には包容力がある。ちっぽけな自分の悩みなんて、吹き飛ばしってくれるような豊かさがある。「海」という感じの中に「母」という字を見つけたのは詩人の三好達治だった。いっぽうフランス語では、母はmère、海はmerという。

海よ、僕らの使ふ文字では、
お前の中に母がゐる。
そして母よ、仏蘭西人の言葉では、
あなたの中に海がある。
(三好達治「郷愁」より)

出典 俵万智の子育て歌集「たんぽぽの日々」 小学館

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