「りゅう」とおしゃべり
歌人、俵万智さんの「りゅうのめのなみだ」という絵本を通してお子さまとふれあうエッセイです。りゅうになりきる俵万智さんとお子さまの微笑ましい対話の中に、お二人の素晴らしい感性がきらりと光ります。今回は「???」となってしまうベビー&キッズシッターも登場します。
「りゅう」になって息子に答える
ストーリーのある絵本を楽しめるようになった息子は、このごろさかんに登場人物に話しかけてくる。「くる」と感じるのは、読んでいる私が、答えなくてはならないからだ。
今息子が一番よく話をするのは「りゅうのめのなみだ」の「りゅう」だ。もともとこのお話が大好きで、初めて読んでやったときには、涙ぐんでいた。
そのうち、主人公の子どもと同じように、りゅうを自分の家によんでやりたいと思うようになったようだ。
「あのね、ねんどあるんだけど、こんどねんどしよ。」りゅうとの会話がはじめると、物語の方は完全に中断したままとなる。
「ねんど?」とりゅうの声音で私が答えると息子の顔がぱっと輝く。
「いろんないろがあるから、みせたげる。りゅう、てがないから、ふた、あけたげるから・・・・・それからカレーたべよ」
「カレー?」
「ちょっとからいの。でもがんばればだいじょうぶ・・・・・からいときは、みずのんでね」
「りゅう」ちょっとだけこわいんだ
ある時、ややコワイ声で「たべてもいいおともだちは、いる?」と聞いてみると、
「いません!」ときっぱり言われてしまった。
また「ねえ、りゅうのこと、こわくないの?」と水をむけると
「・・・・・ちょっと、こわい」と、もじもじ。
(悲しそうなりゅうの声で)「えっ、やっぱり、こわいんだ」
「うん、でも、ちょっとだよ、たくさんじゃないよ、ちょっとこわいの」
一所懸命気をつかっているのが、なかなか健気だ。だんだんこちらも、物語そっちのけで、りゅうごっこをしてしまう。
「ねえりゅうくん、キャベツすき?」
翌日も会話は続き「きのう、りゅうといっぱいお話したねえ」
「うん、いろんなものたべさせたげるんだ。かんぴょうと、ラムネと、キャベツと・・・・・りゅう、キャベツたべるかな?」
「さあ、聞いてみたら」という具合。
すると早速絵本を持ってきて「ねえりゅうくん、キャベツすき?」と表紙に向かって子どもは話しかける。「すきだよ~」とまたりゅうの声で答えると大喜びである。
「???」となったシッターさん
さらに後日、シッターさんと粘土あそびをしているときにも
「あのね、あしたりゅうがくるんだ」と、ごく普通のことのように話していた。
「???」となっているシッターさんに、かくかくしかじかと説明をすると、ナルホド、とにっこり。
「りゅうに、きてねっておねがいしちゃったの」
嬉しそうに言う息子を見ていると、なんだか本当に、りゅうが遊びにくるような気がしてくる。
出典
書名 「かーかん、はあい 子どもと本と私」
著者 俵 万智
発行所 朝日新聞出版
2008年11月30日 第1刷発行