子どもの心の発達と相互作用 ~網野武博先生の「保育マインド」から①~

06-25-2021

「保育マインド」とは、健全で健康な生活を送ることができる能力や適応性とともに、子どもを愛し、理解し、尊重する基本的態度と、それに基づいた真に豊かなヒューマン・リレーションシップを持つことのできる人間性と感性である」と網野先生は述べています。
コンビスマイルでは、「保育マインド」を基本とした保育を行っています。何回かにわたって網野先生の「保育マインド」をお伝えしていきます。

~人間における相互作用の重要性~   網野武博

衝撃的な史実!!

まず、ある史実を紹介しましょう。20世紀の初頭、ドイツにおいて「ゲルマニア史記」という史録が編纂されました。そのなかに、15世紀にフリードリッヒ2世が試みた人間の言葉の発現に関する実験ともいうべき史実が載せられています。彼は今様にいえば大変科学的探究心が旺盛であったのでしょう。人間の言葉がどのように生じてくるのだろうかということに関心をもち、何としてもそれを追求したかったようです。もし、まだ発語のない乳児に全く言葉かけをしないで育てた場合、その乳児が最初に発する言葉はいったい何語であるか、最も古い起源を持つといわれるヘブライ語か、それともラテン語か、あるいは当時身近で一番使われているゲルマン語か、はたまた生みの親の話す言葉なのだろうかということを知りたかったのです。
このため、彼は国中の捨て子の赤児を城内に集めるように命じ、何人もの子を城内で育てることになりました。
そして、乳母たちに対して、「これらの子どもたちに十分に乳を与えなさい。沐浴などを大いにしてあげなさい。
しかし、子どもたちに言葉をかけたり、抱き上げてあやしたり、機嫌をとったりすることは絶対してはならない」と厳命したのです。
つまり、言葉と関係する行為を全て禁じたのです。
彼はそのような状態で、子どもたちは何語を発するのかを今や遅しと日々待ち続けました。
しかし、その結果は、「やがてすべての乳児が死亡した」というものでした。

言葉かけをしなかったら、どの国の言葉も出てこなかったのじゃないかな?・・・ と想像していたんですけれど、「すべての乳児が死亡した」という事実にショックを受けました。実験に集められたかわいそうな子どもたちをしっかり抱きしめたい気持ちです。
(ベビー&キッズシッター Y.K)

フリードリッヒ2世 肖像

「笑顔」や「言葉かけ」がないとヒトは生きていけない

その原因は、乳母が乳児に対して笑顔であやしたり、言葉かけをしなかったためであったのです。
この史実は、ヒトがこの世に生を享け、人間となる育ちをしっかりと歩み始める新生児期・乳幼児期において、いかに母性的な養育環境が重要な意味をもっているかをはからずも教えてくれます。
親や保育者が単に授乳や沐浴、そのほかさまざまな身の回りの世話をすること、これをマザーリングといいますが、このマザーリングだけでは新生児や乳幼児の心身の成長・発達は進まない、いや、それだけでは生きてさえいけないということをいみじくも語っています。
自然に営まれているマザーリングの場面をよく観察してみますと、そこには保育者と子どもとの間でまなざしの交わし合い、微笑み合い、語り合い、揺すり合いなどのやりとり、つまり人と人との基本的な相互作用が伴っているのが通常の姿です。

実際、赤ちゃんに授乳をしたり、おむつを交換したりするときに、あやしたり言葉かけをしなかったりするほうが難しいです。思わず「おなかすいたのねえ・・・ たくさん飲んでね!」とか「わあ、おむつが濡れて気持ち悪いねえ。・・・ほーら 気持ちよくなったでしょ?」と声かけをしています。当たり前に行われていることですが、このことこそ大切なのですね。
(ベビー&キッズシッター Y.K)

マターニシティの原点である相互作用

このような両者の心理的な一体感をもたらす相互作用を豊かに伴ったマザーリングをマターニシティといいます。
新生児や乳幼児にとってマターニシティは必要不可欠な栄養源です。人間は人生の初期にあるほど、身体的栄養源のみならず心理的栄養源を吸収することなくして、成長・発達の可能性を開花させることはできません。それどころか生きていくことさえできないのです。
マターニシティの原点ともいうべき豊かな言葉かけやそれに随伴する相互作用が伴わない養育、保育が行われるならば、その子の成長・発達が妨げられるばかりでなく、生きる意欲や生命すら失われてしまうことが、フリードリッヒ2世の逸話からも理解できます。

赤ちゃんは、ただ授乳をして、おむつ交換をして、きれいに沐浴して寝かせておくだけでは育たない、それどころか死んでしまう ということがよくわかりました。マターニシティって大切にしたい美しい言葉ですね。
「相互作用」についてもっと学びたいと思います。次の講義を楽しみにしています。
(ベビー&キッズシッター Y.K)


網野武博
東京大学教育学部教育心理学科卒 元厚生省児童家庭局児童福祉専門官、元東京経済大学教授・上智大学教授・東京家政大学教授、元公益社団法人全国保育サービス協会会長 など

出典:在宅保育の考え方と実際 改定 ベビーシッター講座Ⅰ理論編(第二版) 2010年

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