子どもの有能性と相互作用 ~網野武博先生の「保育マインド」から②~

06-30-2021

網野先生からコンビスマイルのブログに次のようなメッセージをお寄せいただきました。ありがとうございます。
保育マインドの涵養は、保育の専門性として非常に大切であると思っていますが、この度このようにブログに掲載していただき、本当に有り難く思っております。なにがしかのお役に立てましたら、大変幸甚な次第です。          網野武博

~子どもの有能性と相互作用~   

母子像の魅力

マターニシティは、母親と幼な子のかかわり合いの姿のなかに最も典型的にあらわれています。古来、母子像はさまざまな民族、文化、宗教を通じて描かれてきました。母子像の数限りない絵画や写真、母子観音などの彫像、イエス・キリストを抱く聖母マリア像などがその典型です。
その多くは、平和で柔和な、慈しみに溢れた雰囲気に包まれています。母親に抱かれた子は安らぎの表情を浮かべ、まなざしを交わし合い、今にも母親の口から語り掛ける言葉が聞こえてきそうです。この母親と子の姿が醸し出す魅力が、今日に至るまで多くの画家や写真家を引き付けてきたのは、なぜなのでしょうか?
それを知る重要な科学的知見、とりわけ発達心理学、小児科学の進歩の例を取り上げ、具体的に確かめてみましょう。

母子像には母親のマターニシティがあふれるように描かれているので、多くの人がその魅力に惹かれるのですね。私はある保育園に飾ってあったラファエロの母子像が大好きでした。(ベビー&キッズシッター Y.K)

子どもの持つ有能性って?

この約半世紀の間に、児童期、幼児期、乳児期、そして新生児期の発達への関心と科学的な成果は非常に高いものがあります。特に人生の初期にある子どもは、単に未熟で、無力な状態にあるのではなく、積極的に能動的に外界を動かす能力を備えているということが明らかになってきました。
これを有能性(コンピテンス)といいます。
それが特に自分とかかわる人々を通じて、人間として育つ可能性や、一人ひとりの子どもが潜在的に生得的にもっている諸能力を開花させる可能性を引き出すうえで重要な意味をもっていることがわかってきました。


例えば、なぜ大人たちは、赤ちゃんの表情やしぐさに魅入られるのでしょうか。その笑みの姿、泣きの姿、不安な姿は、人生のほとんどの時期にみられる他人を意識し、その影響力を打算したようなものではありません。
その姿をみると通常の人は、それが天使のように無垢であり、愛くるしく、愛おしく、かわいそうでたまらず、思わず身を近づけ、声をかけ、やさしく抱き上げ、この子のために何かをしてあげたい等の思いをかき立てられます。
それが幼い子どもたち、特に新生児、乳児が生得的にもっている魅力であり能力です。つまり、自分とかかわる人々に対してその有能性が示されている例なのです。
このことが、人が人を「ケア」するという動機づけを起こさせるのであり、まさにそれが人生の初期にある子どもへのマターニシティを生じさせるのです。

赤ちゃんが天使みたいに笑えば思わず私も微笑みかける、赤ちゃんが泣けばかわいそうで何とかしてあげたくなる・・・。いつも自然にそんな気持ちになっちゃいます。
でも、赤ちゃんが私を動かす力を持っていることを知りました。それを「有能性」というんですね。
赤ちゃんは無力ではなくて大の大人を動かす素晴らしい力を持っていることに気づきました!! すばらしい!!
(ベビー&キッズシッター Y.K)

母親と幼子との間に典型的にあらわれているマターニシティ、このごくありふれた日常的な大人と乳幼児とのかかわり合いの奥深くに、科学的な目が急に注がれはじめたのはけっして古いことではなく、たかだかこの30年にすぎません。静止した画や写真の世界から、両者が動き出す現実のダイナミックな関係の姿を科学の目が追い始めた時、特に新生児期、そして乳幼児期にみられる両者の特有のコミュニケーションが浮き彫りになってきました。

三つの感覚的協応とは?

誕生後間もなくから新生児と母親の間には心と体が一体となった特有の同調的な相互作用がみられることから示唆されるようになりました。この行動は、両者が相互の動きに触発されて、その人間関係の基本を結ぼうとする無意識的・非意識的行動です。その特有の行動を三つの感覚的協応と呼びます。

  • 両者が眼と眼を見つめ合う関係
  • 両者がその声(特に子どもの場合は声なき声も含めて)を通じて語ろうとし聴こうとする関係
  • 両者が肌と肌を触れ合わせようとする関係(いわゆるスキンシップ)です。

この三つの感覚的協応が、相互作用のなかで統合的・協奏的に営まれています。この行動は、ヒトが人間として育ち、人間相互の基本的な信頼、愛、幸福感を育み、維持するうえで不可欠なものであるように思われます。そのような関係は、年齢とともに徐々に減少していきますが、しかし人生のいかなる時期においても、必要な時に必要は状況で生じる特徴をもっています。そして何よりも、人生の初期にあるほど重要な意味をもっていることは、これまでふれてきたことから十分に理解できるでしょう。

「相互作用」の意味がよくわかりました。目と目、声と声、肌と肌を合わせること。これが三つの感覚的協応なんですね。赤ちゃんの保育をするときには特にこの三つを大切にしなくてはならない、ということがよくわかりました。
ベビー&キッズシッターの仕事は一対一で赤ちゃんと向き合えるので、しっかりと信頼関係を築いていきたいと思います。
「ケア」という言葉が出てきましたが、さりげなく使うこの言葉の本当の意味を知りたいです。次のお話を楽しみにしています。
(ベビー&キッズシッター Y.K)

網野武博

東京大学教育学部教育心理学科卒 元厚生省児童家庭局児童福祉専門官、元東京経済大学教授・上智大学教授・東京家政大学教授、元公益社団法人全国保育サービス協会会長 など

出典:在宅保育の考え方と実際 改定 ベビーシッター講座Ⅰ理論編(第二版) 2010年

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