あの赤い花もこの白い花もつつじ? 俵万智さんの子育て歌集 ~たんぽぽの日々~より

05-10-2021

つつじの咲く季節、燃えるような色どりに目を奪われます。
子どもの目もつつじの花にくぎ付け。おはなに名前があることを知ったころは「あのおはなは?」「このおはなは?」とママは質問ぜめに。一つ一つ丁寧に答えながら、歌人 俵万智さんの心の中に「子どもの目」が宿ります。

あの赤い花がつつじで この白い花もつつじと呼べる不思議さ

「あのおはなは、なあに?」
「つつじっていうんだよ」
「このおはなは?」
「これもつつじだよ」
 子どもに教えながら、自分自身が一瞬、とても奇妙な感覚にみまわれた。だって、「あのおはな」は燃えるようなピンク色だし、「このおはな」は雪のような白なのだ。目にしている姿がこんなに違うのに、両方とも「つつじ」だなんて。子どもにすれば、「あのあかいはな」「しろいはな」のままのほうが、よほどわかりやすいのではないだろうか。
 逆にそれまでの自分は、その両方をつつじと呼ぶことに、なんの不思議さも感じていなかった。こういう不思議さを持てなくなることが、大人になるということなのだろう。そうして、こういう不思議さに再びめぐりあえるということが、子どもと過ごす時間の醍醐味なのだ、という気がする。
 もう一度、自分の中に「子どもの目」が宿る。その目で世界を見る。それはとても新鮮なことだ。   


 子どもと初めて読んだ絵本の中に「いぬ わんわんわん」というページがあった。このひらべったい、紺色の「いぬ」と、毎朝散歩で出会うゴールデンレトリバーの「ゴーちゃん」が、同じ「いぬ」というのも、なんだか不思議な気がした。
 平面に線で描かれた絵と、ふさふさした毛を生やしてまとわりついてくる大きな生き物と。両者を「いぬ」と認識するというのは、実はすごく難しいことではないだろうか。まっさらな目で見たら、どう考えても同じ種類のものには見えないのでは? そう思ってはらはらしていたが、案外簡単に、子どもはそのハードルを越えていった。うわあ、人間ってすごい、と感じた。
 私は脳の専門家ではないので、勝手な想像でしかないが、この似ても似つかない二つのものを、「同じ」と思えるのは、やはり「いぬ」という言葉のおかげではないかと思う。

出典:俵万智の子育て歌集「たんぽぽの日々」
俵万智著
小学館(2010年)


言葉があるから概念を言葉にまとめていくことができる子ども。


言葉があるから、あの赤い花もこの白い花も「つつじ」。ひらべったい平面に描かれている絵も、ふさふさした毛でまとわりついてくるのも「いぬ」。
人間の子どもはこんな難しい概念も言葉にまとめていくことができます。「子どもの目」になって見慣れた世界をもう一度見直したとき、不思議な光景が見えてくるかもしれません。(Y.N)

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