「育つ」ことへの信頼 ~網野武博先生の「保育マインド」から⑦~

09-27-2021

「保育マインド」シリーズも最終回になりました。今回は子どもの「育ちたい」という力を伸ばすには、どう接したらよいのかを考えてみましょう。

「育てる」意識が「育つ」意識を凌駕する?

大人の「育てる」意識が、子どもの「育つ」意識を凌駕するもう一つの例をあげてみましょう。
ずいぶん前の話になるのですが、ある子どもが5歳にして難しい漢字である大相撲力士の初代貴ノ花の“貴”と“花”を覚えました。家族、両親は、この子は漢字に興味がある、ひょっとしてこの子はすごい才能があるのではないかと思ってしまい、それではと、同じ人気力士の輪島の“輪”と“島”という字を「教え込もう」としました。その子の表情は、楽しさから苦痛へと変わり、あっという間に漢字への関心を失ってしまいました。
その子は家族があまりに熱烈に貴ノ花を応援するのを、テレビで一緒に楽しんでいるうちに、彼が土俵に上がるたびにあらわれるしこ名の漢字をしっかりと覚えて書くことができたのです。
文字や漢字への関心も、子どもにとってそれが楽しい生活、あそびの一環であれば、その能力の可能性を驚くような速さで発揮し、書き文字として吸収することも可能なのです。しかし、親や保育者、教育者は、大人の常識、固定観念であそびと勉強を対置させ、子どもの生活やあそびを無視して、このように待ってましたとばかりに干渉し、「教え込もう」としがちです。

これって、半世紀以上前のことですね。「貴」「花」という漢字を書くことができたのは、家族そろって熱狂的に応援する楽しい時間が与えてくれた奇跡だったのでしょう。
でも時代は変わっても同じことが起きていると思います。20年活躍して令和3年に引退した白鵬、投手としても打者としても大活躍で「二刀流」の選手と呼ばれる大谷翔平の名前を、書くことは難しいけれど読めるお子さま、ひょっとすると書けるお子さまもいるかもしれません。
「育つ」力を持っている子どもに、無理やり「教え込もう」とすると、逆に「育つ」力をへし折ってしまうことになる・・・。保育の場では、お子さま自身の「楽しい」気持ちを大切にしながら、「育つ」力を応援することを大切にしていきたいと思います。(ベビー&キッズシッター Y.K) 

せめて小学校低学年までは、大切にしたい子どもの生活そのもの

「導き込む」「教え込む」行為は、そのいずれも、どこかで子どもによかれと思って行っていることが多いものです。しかし、そこには、その子どもを心から受容し、その個性や能力を子ども自らが発揮していくことに信頼を寄せるマインドが欠けている場合が少なくありません。そのような意識や行為が、往々にして子どもの「育ちたい」という意欲を殺ぎ、その可能性の目をつんでしまうおそれがあることを十分理解する必要があります。
保育が必要な時期、せめて幼児期、小学校低学年の時期の頃までは、子どもの生活そのものを受容し、それを「お勉強」ではなく、「あそびそのもの」「生活そのもの」として受け止め、支え、励ますだけで充分です。

子どもに対して「教えたい」という大人の気持ちだけが突っ走ると、かえって子どもの意欲がそがれてしまうんですね。
子どもが「育つ」環境づくりが私たち保育者の役割なのかもしれません。「自分で種をまいて植物を育ててみる」「自然の中に出かけて季節の移り変わりを感じる」ことが、生物学への知的好奇心につながるかもしれません。
さりげなく置いてある本、それを子どもが自ら手に取ったときに「読みたい」気持ちにつながっていくかもしれません。そんな環境を作っていきたいです。
(ベビー&キッズシッター Y.K)

子どもが「育つ」ということへの信頼こそ大切

このように「育てる」ことにのみ心を傾けすぎていると、その子どもが個性豊かに、身体的、心理的、社会的に自立しつつあること、自立しようとしていることに心を向ける余裕をもてなくなります。
人間が生得的にもっている「育ちたい」「自立したい」という基本的欲求を受け止め、あるいは徐々にあらわれるその子どもの個性的な能力や可能性を受け止め、それを支え、それに沿ってあるいはそれを後押ししたり、時にはそれをじっくりと待つマインド、つまりその子どもが「育つ」ということへの信頼が、保育者には欠かせません。

「育ちたい」「自立したい」という気持ちを子どもが備えていることを知り、子どもは「育つ」力を持っているのだと信頼することこそ、大切なのですね。
「保育マインド」をぜひ日々の保育に生かしていきたいと思います。
保育の神髄について、たくさんのことを学ぶことができました。本当にありがとうございました。
(ベビー&キッズシッター Y.K)

(写真と本文の内容は関係ありません。)

出典:在宅保育の考え方と実際 改定 ベビーシッター講座Ⅰ理論編(第二版) 2010年

網野先生からコンビスマイルのブログに次のようなメッセージをお寄せいただいています。

保育マインドの涵養は、保育の専門性として非常に大切であると思っていますが、この度このようにブログに掲載していただき、本当に有り難く思っております。なにがしかのお役に立てましたら、大変幸甚な次第です。

網野武博

東京大学教育学部教育心理学科卒 元厚生省児童家庭局児童福祉専門官、元東京経済大学教授・上智大学教授・東京家政大学教授、元公益社団法人全国保育サービス協会会長 など

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