子どもが好きであることと 子どもから好かれること(網野武博)
子どもを育てることにかかわり、子どもの育ちを支え、そして導く役割を担う家庭訪問保育者は、心身ともに健康であることともに、子ども好きである、子どもから好かれるという資質が備わっていることが望まれます。いや、積極的な表現をすれば、望まれるのではなく、それが求められるのです。
「あなたは子どもが好きですか?」と問われたとしましょう。大多数の方は、「もちろんそうです」と答えるでしょう。とりわけ保育者になろうとする人たちの多くは、そのような問い自体が無意味であると思うかもしれません。
ところが、子ども好きであるということの判断基準や、そもそも何を意味しているのかは実際のところ極めて難しいものです。子どもに関する専門家(これも必ずしも意味明瞭な言葉ではありませんが)からみると、「私は子どもが好きだ」と言ったり、思っている人であっても、必ずしもそうではないのではないかと思わせたり、「私は子どもが苦手で・・・・・」と言ったり、子どもが嫌いだと思っている人であっても、そんなことはないなと思わせる人たちは結構存在します。
まして、子ども好きであるということが必ずしも子どもから好かれるということと結びついていなかったりするのです。
私の友人に「子どもってあまり好きじゃない」という人がいます。その言葉を聞いたときに、信じられない! と、思いました。
ところが、彼女に「お子さん連れてきていいわよ。」とお茶に招待され、まだ3歳と5歳だった男の子を連れて、「おばちゃんちに行ったら、静かにするのよ。」と言いながら、遊びに行ったときのことです。
家に着くなり、彼女は「この部屋では好きに遊んでいいよ。」と子どもたちに声をかけてくれたのです。
なんと隣の部屋には、ティッシュの空き箱、印刷しそこなった紙の束、クレヨン、のり、安全なはさみなどが用意されていたのです。大喜びした子どもたちはモノづくりに夢中、それがごっこ遊びに発展したり、いつものケンカもありませんでした。
おかげで私たちはゆっくりとティータイムを楽しむことができ、私もリフレッシュできました。
お礼を言う私に「ただ、私たちがゆっくりおしゃべりしたかったからね。」と言う彼女。でも実は、子どもが何が好きかを知っていて、子どもを喜ばせることを知っていました。彼女が「子ども嫌い」とは言えないような気がしました。(ベビーシッター Y.K)
情性的・感性的レベルでの資質
これらのことは、どうも頭で理解し、行動するレベル・領域のものではないように思います。もしそうであるならば、専門性としての知識・技術を磨くことによってこれらも身につくはずです。
しかしそれは、われわれ人間にとって、いや、人との豊かで快適な相互作用を特に必要とする発達段階にある幼少期の子どもに、素直に、正直に反応としてあらわれるところをみると、並外れて感性や人間性にかかわっているように思われます。
子どもがその人を受け入れ、心を開いているかどうかの状態で、その人が子ども好きであるとか、子どもから好かれるということが冷酷に判断されてしまいます。技術としてのそれには限界があります。
友人の家を出る時間になりました。すると子どもたちは「おばちゃんちの子になる!」と言って、帰ろうとしないのです。
子どもの気持ちは正直ですね。友人の心遣いが通じて、おばちゃんが大好きになったのです。
「ありがと。また、遊びに来てね。」という友人の顔には、決して「子ども嫌い」とは言えない優しさが溢れていました。(ベビーシッター Y.K)
子ども好きであるということは、子どもが判断しているといえます。
具体的に表現すると、子どもにとって、その人は自分に心を開いてくれている、自分も心を開きたい、自分のことを思いやってくれている、自分もこの人のことを思っていたい、
自分をあの快適な幸福感、充足感を味わえる世界に連れて行ってくれたり、一緒に来てくれたりしてくれる、
この人と離れたくない、この人とまた一緒にいることができるだろうか等の思いをもつことのできる人です。
子ども好きである、子どもから好かれるということは、このように相互作用的な情性的・感性的レベルのことであり、思考的・理性的レベルで、その資質を身につけ、向上させることができるものではないのです。
息子たちも今は13歳と15歳になりました。自称「子ども嫌い」だった友人の家にその後も何度も子ども連れで遊びに行くことになりました。
用意してあるものは、大きな段ボールだったり、粘土だったり、その度に工夫が凝らされていました。
「子どもって面白いわね。実は、何を用意すれば子どもたちが喜ぶのかなあ、とワクワクするようになっていたのよ。私は本当は子どもが好きだったのかもしれない。」
友人は変わらない優しい笑顔で大きくなった息子たちを見ながら、言うのです。(ベビー&キッズシッター Y.N)
(本文と写真は関係ありません。)
出典:在宅保育の考え方と実際 改定 ベビーシッター講座Ⅰ理論編(第二版) 2010年
網野先生からコンビスマイルのブログに次のようなメッセージをお寄せいただいています。
保育マインドの涵養は、保育の専門性として非常に大切であると思っていますが、この度このようにブログに掲載していただき、本当に有り難く思っております。なにがしかのお役に立てましたら、大変幸甚な次第です。
網野武博
東京大学教育学部教育心理学科卒 元厚生省児童家庭局児童福祉専門官、元東京経済大学教授・上智大学教授・東京家政大学教授、元公益社団法人全国保育サービス協会会長 など
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