子育てをしているとき、多くの人が「自分の時間がほしい!」と思った経験があると思います。歌人、俵万智さんも子育て中「自分の時間がほしくありませんか?」とよく聞かれたといいます。でも、息子さんと一緒にいる時間を「たんぽぽの日々」と感じていた俵万智さんは、それが限られたものであることを知っていました。
自分の時間ほしくないかと問われれば 自分の時間をこの子と過ごす
子どもが生まれてから、よく聞かれたことの一つだ。
「自分の時間がほしくありませんか?」。ママ友も、この言葉を時おり口にした。「自分の時間が欲しいよね」。
正直言って私自身も、「あ~好きなだけ寝たいなあ」とか「ゆっくり本が読みたい」「芝居を見にいきたい」「外でお酒を飲みたい」などなど、子どもがいては難しいことを、したいと思うことは多々あった。
が、もし悪魔が取引にやってきて「そういう時間をいやというほどあげますから、あなたの子どもをください」と言ったら、答えは即座にNOだろう。
つまり自分は、自分の時間のつかいみちとして、子どもと過ごすことを、この人生で選んでいる。しかもそれは無限に続くものではなく、「たんぽぽの日々」なのだ。
そんなふうに発想を変えるようにした時から、ずいぶん楽になったような気がする。
「自分の時間」という宝物があって、それを子どもに奪われていると考えたら、つらくなるばかりだ。むしろ、なんてことない自分の時間を、宝物に変えてくれるのが子どもではないだろうか。
自分の時間がほしいという発想は、どちらかというと仕事をしていないお母さんに多いような気がした。自己実現、という言葉もよく耳にする。でもね、と私は、相手が親しい友人ならこう言ってきた。
「私は仕事をしていて、それはやりがいのあることだけど、仕事には、いくらでも代わりをしてくれる人がいる。でも子どもにとっての母親は、世界中で自分だけ。代わりの人がいない、自分にしかできないっていう意味では、これこそすごい自己実現だと思うんだ」
子どもとの時間が、そういう意味合いを持てるのも、たんぽぽの日々ならではのこと。やがて一人一人、子どもは自分自身の自己実現に向かって、飛んでゆくのだから。
出典:俵万智の子育て歌集「たんぽぽの日々」
俵万智著
小学館(2010年)
波打ち際に作った砂山のように作っても作っても崩れる子育てと家事の時間。子育てと仕事と家事に追われる日々。
「自分の時間」が欲しいと思われる方はたくさんいらっしゃると思います。
一方、最近はていねいに「たんぽぽの日々」をおくっているお母さまたちも増えてきたような気がします。
産休が明けてから保育園に赤ちゃんを預けていらしたお母様が、せっかく赤ちゃんと過ごそうと張り切っていた休日、赤ちゃんは一日ぐっすり寝ていて気合が空回り、ちょっと残念がる様子のブログ。日々写真を撮り、親しい友人に配信する愛情たっぷりのブログ。
こんなブログを見ると、かけがえのない大切な「たんぽぽの日々」、それこそ自分に与えられた貴重な「自分の時間」であり自己実現だと気づいている素晴らしいお母さまなんだなあと思います。
「たんぽぽの日々」はお子さまにとってもかけがえのない貴重な時間となり、自分を大切にする「自己肯定感」が育まれることにつながっていくのだと思います。
(Y.N)